大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)12号 決定 1994年1月24日

申立人

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

清木尚芳

右訴訟代理人弁護士

藤原達雄

被申立人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

西村康雄

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

右訴訟代理人

福田一身

三国多喜男

橋本公夫

主文

一  本件申立てを却下する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  本件申立ての趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二  本件救済命令が発せられた経緯及びその理由は次のとおりである。

おんな労働組合(関西)(以下「組合」という。)は、平成二年九月三日、被申立人に対し、その組合員である和田弘子が、昭和五八年九月三〇日、臨時雇用員として勤務していた日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)大阪工事局から不当解雇されたとして、「<1>和田の不当解雇について、<2>和田の在職時の扱いについて、<3>和田の解雇時の諸条件について、<4>その他関連次項」を交渉事項として団体交渉を申し入れたが、被申立人は、右団体交渉の議題については大阪高裁で係争中であるとして団体交渉を拒否した。右団体交渉拒否についての組合からの救済申立てを受けて、申立人は、右の団体交渉事項のうち<2>、<3>については和田の退職手当算定に関連する問題であるとした上で、右二項目について被申立人が団体交渉を拒否したことは労働組合法七条二号の不当労働行為に該当すると判断し、被申立人は和田の退職手当算定にかかわる問題に関する団体交渉に速やかに応じなければならない旨の本件救済命令を発した(なお、申立人は、その余の救済申立ては棄却した。)。

右判断の理由は、国鉄大阪工事局は、昭和五八年当時、和田が所属していた国鉄労働組合大阪工事局分会(以下「国労分会」という。)との間で行われた一〇回にわたる団体交渉等において雇用保険支給問題、退職手当算定問題等について一定の協議・説明をしたものの、充分協議を尽くしたと認めるに足る疎明はなく、臨時雇用員に対する退職手当算定方式は同分会及び臨時雇用員に対して示されないまま団体交渉が終了し、和田は和田解雇後に提起した地位確認等請求訴訟において被申立人から臨時雇用員に対する退職手当算定方式が示されたことから労働基準監督署及び公共職業安定所に調査に行き、その適用に疑義がある旨の説明を受けたものであるから、和田解雇時とは異なる事情が生じているものといわざるを得ない、ということにある。

三  本件救済命令の適法性について検討する。

(証拠略)及び申立人が本案訴訟で提出した本件救済命令の審査記録によれば、国鉄大阪工事局は、昭和五八年当時における国労分会との間の団体交渉において、臨時雇用員の退職手当算定方式について、国鉄の内部規定を援用して説明をしたこと、右の算定方式は、国鉄の確立した法令解釈に基づくものであって、同工事局の一存で左右することができる性格のものではなかったこと、国労分会は、そのような同工事局の説明に理解を示し、争わない態度を示していたこと、国労分会自身、臨時雇用員の退職手当の問題は、同工事局との間の昭和五八年九月三〇日までの団体交渉によって決着が図られたものとみていたこと、以上の事実が認められ、右事実によれば、同工事局は、臨時雇用員の退職手当算定にかかわる問題について、国労分会との間の団体交渉において協議を尽くしたということができる。したがって、本件救済命令の基礎となった申立人の事実認定には、重大な疑義がある。

右に加えて、本件救済命令の基礎として認定された次の事実、すなわち、国鉄大阪工事局は和田の退職手当を供託し、和田は昭和五九年五月一〇日に還付請求をしてこれを受け取ったこと、和田の雇止めから本件団体交渉申入れまで、約六年一一か月という長期間が経過していること、和田が組合に加入してから本件団体交渉申入れまでも約二年一〇か月が経過していること、その間、和田の所属した国労分会、組合とも、和田の退職手当算定問題に関して国鉄ないし被申立人と団体交渉は行わず、かつ行う態度も示さなかったこと、被申立人の従業員には組合の組合員はおらず、被申立人と組合との関係は、本件団体交渉申入れによって初めて生じたものであること、以上の事実関係を考え併せると、和田の退職手当算定にかかわる問題について、被申立人が団体交渉を拒否したことについて正当な理由ない(ママ)とするには不十分であるから、被申立人による団体交渉の拒否が不当労働行為に該当するとして被申立人に対し右の問題につき団体交渉を命じた本件救済命令の適法性には、重大な疑いがあるというべきである。

四  本件救済命令の必要性について検討する。

三で指摘した昭和五八年九月三〇日から本件団体交渉申入れまでの間の事実関係、及び、被申立人が本件団体交渉申入事項のうち「<1>和田の不当解雇について」という事項について団体交渉を拒否したことは不当労働行為に該当しない、と申立人自身が判断しているとおり、和田の臨時雇用員としての地位の存否自体の問題については被申立人が組合との間の団体交渉に応じる義務を負わないことに照らすと、本件団体交渉申入れの時点において、和田の退職手当算定にかかわる問題につき組合が被申立人との間で団体交渉をしなければならない理由は強固なものではなかったということができる。その後現在に至るまでも、右の事情に変化はない。

よって、本件について緊急命令を発しなければならない必要性も認められない。

五  したがって、本件について緊急命令を発することは相当でないから、本件申立てを却下することとし、申立費用の負担につき、行訴法七条、民訴法二〇七条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 大竹たかし 裁判官 倉地康弘)

申立ての趣旨

一、被申立人は、申立人が大阪府地方労働委員会平成二年(不)第三七号不当労働行為救済申立事件について、平成三年一一月一五日付けで発した救済命令主文一「被申立人は、申立人から平成二年九月三日付けで申入れのあった事項のうち、和田弘子の退職手当算定に係わる問題(「在職時の取扱い」及び「解雇時の諸条件」と題する問題)に関する団体交渉に速やかに応じなければならない。」に従わなければならない。

二、申立費用は、被申立人の負担とする。

との決定を求める。

申立ての原因

一、申立外、おんな労働組合(以下「組合」という)は、大阪を主とする関西地方の企業等で働く女性労働者を主たる対象として組織する労働組合である。

二、申立外、和田弘子(以下「和田」という)は、昭和五八年九月三〇日付けで日本国有鉄道(以下「国鉄」という)から解雇(雇止め)されたことを不服として従業員としての地位確認等を求める訴訟を提起する一方、同六二年一一月には組合に加入し、解雇撤回闘争を続けている。なお、前記訴訟については、現在最高裁において係属中である。

三、平成二年九月三日、組合は国鉄清算事業団に対し、和田の解雇問題等に関する団体交渉を申し入れたところ、国鉄清算事業団は団体交渉を拒否した。

四、平成二年九月二〇日、組合は申立人に対し、被申立人が組合の要求した和田の解雇問題等に関する団体交渉を拒否したことが不当労働行為であるとして救済申立て(大阪府地方労働委員会平成二年(不)第三七号)を行った。

五、申立人は右申立てに基づき審査を行い、平成三年一一月一五日、申立ての趣旨記載の主文による命令書を被申立人に交付した。

六、被申立人は、右命令を不服として、御庁に対し、その取消訴訟を提起し、当該訴訟は、御庁平成三年(行ウ)第一〇六号不当労働行為救済命令取消請求事件として係属中である。

七、申立人は、労働委員会規則第四七条に基づき、平成四年二月一二日の第一四六四回公益委員会議において労働組合法第二七条第八項に定める命令(緊急命令)を申し立てる旨決定した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例